近江楽座がきっかけで信楽の窯元に就職

滋賀県甲賀市信楽町の老舗窯元・明山窯が運営する「Ogama(おおがま)」は、使われなくなった登り窯と敷地一帯を改修したショップ&カフェ。学生時代にその改修作業に参加したことをきっかけに、信楽やOgamaの将来性に興味を持った盛さん。就職を前提に信楽に移住、卒業論文の調査をしながらOgamaの店番をはじめることになりました。

学生時代の活動とその後

発信拠点をつくる/続ける

01c信楽でかつて100以上もあった登り窯も、時代の流れの中で現在では10ほどにまで減ってしまっているそうです。Ogamaはその中のひとつ。9室も連なる大きな登り窯と作業小屋などが、作陶の道具や作りかけの生地もそのままに丸ごと放置されていました。近江楽座 信楽人(しがらきびと)は、敷地一帯を管理することとなった明山窯からの提案で2010〜2011年にかけ整備・改修を担当。役目を終えた窯を、新たに“人が集まる場所”としてリニューアルしました。現在では、1階でカフェや展示、2階でショップ、登り窯でイベントが行われ、地域のランドマークになっています。
盛さんは先輩に誘われて途中から作業に参加。3回生の夏休みのほとんどの時間を信楽での活動に費やし、日々進んでゆく作業と生まれ変わってゆく窯の姿に夢中になりました。やがて、先輩、後輩、同期、そして窯元の人々と過ごした密度ある毎日が、信楽ならではの風景やまちの人への興味につながって、「この場所のこの先を見てみたい」と思うようになったそうです。
Ogama開店が近づく中、スタッフを探す時期と、奇しくも自身の就職活動とが重なり、働かせてほしいと申し出ました。内定が出てからは敷地内の一棟へ引っ越し、店番の傍ら卒業論文に取り組みました。
信楽人の改修を終えてからも、明山窯は自社で改修作業を継続。盛さんは、大学を卒業して社員となり、ショップとカフェの接客やwebなどを通じて信楽の魅力を発信しています。2015年からは陶芸教室やギャラリー運営が本格的に動き、奔走の日々を送っています。

Ogama
Ogama全景

まちに住み、まちを知ってゆく

盛さんが信楽に移住したばかりの4回生の春。知り合いは明山窯家元の4人が中心でした。それから論文調査のために23社の窯元を訪問するうちに、窯元有志団体「信楽窯元散策路のWA」や作家の人たちと親しくなっていきました。
「もともと、作家志望の若い人が移住してくる土地なので、受け入れられやすい地域とも言えます。しかし、学生という肩書と論文調査という名目があった。思い切って訪ねることができ、登り窯を改修していると言えばすぐにわかってもらえました」
どうやらすっかり有名になっていたようです。「住んでいると、調査と関係なくまちのひとと話すことができる。他愛ない世間話は、調査内容と合わさって信楽の地域性を浮かび上がらせ、まちの時代背景や課題をより深く考えることができた。これらがなければ今のような「ご近所さん」にはなれなかった」と盛さんは振り返ります。まちの歴史や各窯元の変遷、まちの課題を共有し、作家ではないが窯元に務めている。盛さんは信楽では、ちょっと珍しい立場の人間としてコミュニティに加わっているようです。

歴代の先輩が残した力

卒業後、盛さんは信楽にやってくる後輩とOGとして関わるうち、「先輩の残した力」に気付いたそうです。信楽人は近江楽座の最初期からあるグループで、参加した学生総数も多い。さらに、現在も信楽とつながりを持ち続けているOB・OGが何人もいる。ひとりの学生が信楽に関わる時間は短くとも、グループとしての積み重ねがまちとの信頼関係を築いています。
「Ogama改修プロジェクトが始まったのも、私が参加し、移住や調査、就職できたのも、そもそもは先輩方が誠意を持ってまちで活動し成果を残してきたから。“県大の信楽人”に窯元の方々が抱く信頼や期待が、当時も今も私を守ってくれています」
盛さんはそれに気が付いてからは、先輩への感謝と敬意が深まり、OGとしての在り方を考えるようになりました。自分もまた後輩を守る力になれるように。そのためには「日々の業務と地域活動に誠意を、そして何より楽しんで、取り組んでゆくしかないと思います」と。
 
雪のOgamaカフェから大窯を望む

カフェから大窯を望む(写真左)/雪のOgama(写真右)
 

OGとして現役学生に伝えたいこと

地域とのきっかけをつかんでほしい

「同じように地域活動をしている学生のみなさんには近江楽座などの地域活動で地域とのきっかけをつかんでほしい」と盛さん。学生時代に信楽という地域に関わり、現在でも信楽で仕事を続ける盛さんならではのリアリティあふれるお言葉をいただきました。

(2014年11月29日(土)近江楽座10周年記念企画「学生地域活動交流キャンプ in 琵琶湖」におけるトークセッション[記:近江楽座学生委員会 人間文化学部 古長美蘭]より再編・追加インタビュー)
 


 

盛千嘉さん

兵庫県出身。2010年9月から信楽町長野の登り窯及び周辺施設の改装作業に参加。対象物件を「Ogama(おおがま)」として整備する。作業やイベントを通して信楽やOgamaの持つ将来性に興味がわき、2011年4月から信楽に移住、「信・楽・人」代表、卒業論文の傍らアルバイトで働き始める。翌2012年3月環境科学部環境建築デザイン学科卒業。Ogamaを管理運営する信楽焼窯元・明山窯(明山陶業株式会社)に入社、専属スタッフとなる。以来、接客・運営・メディア対応を担当。「来訪者と地域を繋ぐ裏方」が個人的な役割と考え、散策スポットの案内や歴史解説を行っている。